…後輩が赤いクレヨンに気付いたのは、荷物を運び込んだ初日でした…
玄関からリビングに続く廊下の片隅に赤いクレヨンが落ちてるのに気付いて、以前住んでいた家族の忘れ物かと思い、その時は捨ててしまいました…
数日後、玄関の隅に赤いクレヨンが落ちているのを見つけました…
…アレッ?!…捨てたはずなのに…
不思議に思いながらも、ごみ箱に捨ててしまいました…
しかし、数日後…
廊下にまた赤いクレヨンが落ちておりました…
何だこれは?!…
拾い上げて、リビングのテーブルの上に置いてしばらく色々と考えてみました…
しかしいくら考えても答えが出ないし、納得がいきませんでした…
そして今度は捨てずにテーブルの上の小物入れに入れておきました…
それからは、廊下に赤いクレヨンが落ちてることもなく…
赤いクレヨンのことは忘れかけた頃、たまたまゴミ出しで離れた隣家に住む老夫妻のお婆さんと一緒になり、しばらくゴミ集積場で話し込んでしまいました…
そう言えば、僕が住む前に住んでた家族って若いファミリーだったんですか?!…
何気なく聞いてみた…
いやぁ、足の不自由な奥さんと旦那さんの中年夫婦だったよ…
あっ、そうですか…
ただね、越して来て一月半で何も言わずに引っ越して行ったよ…
中年夫婦が越してから二年空き家だったんだよね…
後輩はよっぽど赤いクレヨンのことをお婆さんに話してみようか迷っていると…
お婆さんの口から…
…中年夫婦が越して来る前は、若い夫婦が住んでいてね、幼稚園くらいの可愛い女の子がいたんだよ…
ただ女の子が急に居なくなってしまってさ…誘拐事件か?とかで警察沙汰になって、この辺じゃ大騒ぎだったんだよ…
若い夫婦もそのあと直ぐに越してしまって…しばらく空き家だったんだよ…
後輩は、聞かなければよかったと思い、家に戻り赤いクレヨンをごみ箱に捨ててしまいました…
その三日後…
仕事から夜遅く帰宅して、玄関で靴を脱いで廊下に一歩踏み出した時に、赤いクレヨンが落ちてるのが目に入りました…
何気なく赤いクレヨンが落ちてる辺りの壁を叩いてみると…
明らかに他とは違う音がする場所がありました…
道具箱からマイナスドライバーを持って来て、他とは音が違う壁の壁紙を剥がし始めました…
…すると、廊下の壁だと思っていた場所に半間の押し入れのような扉があり、中には空間がありました…
多分…玄関で脱いだコート等を掛けておくスペースだったんだろうと思いましたが、何故?!…わざわざ埋め殺しにしたんだろう…
薄暗い廊下でポッカリ空いた、わざわざ塞がれたスペース…
後輩は、懐中電灯で中をよく照らしてみました…
ちょっとカビ臭い半間の空間には何もありませんでした…
ただ、外からは見えない扉の裏に懐中電灯の灯りが当たった時に、後輩は固まってしまいました…
扉の裏には、赤いクレヨンで…
「おかあさんごめんなさいだしておかあさんごめんなさいだしておかあさんごめんなさいだして」と書いてありました…
結局、この家は後輩夫妻の新居になることはありませんでした…