この話しはわたしが山に行けない身体になってから数年経った頃、当時勤めていた会社の同僚から誘われて重い腰を上げてキャンプに行った時の話しです…
「yabuお前キャンプの達人だってな!…」
「キャンプ?!…(笑) 野営はしてたけど!…」
「野営とキャンプって、何が違うんだ… まぁいいや、知り合いが子供が出来て大きなテントを買ったんで今まで使ってた小さなテントをくれたんで!キャンプに行ってみたいんだけど、連れて行ってくれよ!…」
当時わたしはロッククライミングの講師として参加してた講習会で懸垂下降中にザイルが外れ滑落して…左膝が砕け、ボルトで固定してた頃でした…
あまり乗り気では無かったのですが、強引な誘いに久々に野営もいいかな!と思い、同僚のSと一緒に行くと言ったTを引率してキャンプに行く事になりました…
さて、どこにするかな?!…
わたしが思案して決めた場所はY県のD村にあるキャンプ場でした…
8月の下旬、まだ夏休み期間のキャンプ場はかなり混んでおりました…
指定された狭いサイトに車を入れてそれぞれ小さなテントを三つ張りました…
到着したのが午後遅かったので、テントを張り終えてから呑む前に露天風呂へ行きました…
露天風呂を堪能して出た頃は既に夕闇のキャンプ場でした…
ランタンの灯りや焚き火の明かりや夕食の香りの中、サイトに戻り二人のリクエストの夕食カレーライスを作りました…
キャンプ初心者の同僚二人にとってはキャンプ!=カレーライス!と言う方程式があったようでした…
露天風呂に行く前に研いでおいた米の飯盒と仕込んでおいたカレーの鍋を火にかけました…
場内はアチコチから夕食の香りと子供たちの歓声が充満しておりました…
焚き火に点火して三人でビールで乾杯!…
飯も炊けて、カレーも出来た頃、小学生の低学年の男の子がわたし逹のサイトにやって来ました…
わたしは「おぅ!…カレーライスが出来たぞ!…一緒に喰うか?!…」と笑いながら聞きました…
「食べる…」男の子はもじもじしながら小さな声で応えました…
食器に盛り付けていると…
「〇〇ちゃんダメよ!…」とお母さんらしき女性が駆けつけて参りました…
「あっ!…構わないですよ!…いっぱい作り過ぎましたし食べて貰うと助かります…」
わたしはお母さんに笑いながら話しました…
ふと見ると、お母さんの腰に後ろからしがみ付いている幼稚園年少くらいの女のコがわたしを見てました…
「カレーライス食べる?!…」
わたしは女のコに声をかけました…
女のコは顔中を笑顔にして、「うん!」と応えました…
「コラ!ダメよ…」お母さんは言いましたが…
わたしは「お母さんもどうですか?!…山屋特製のカレーライスですよ!…」と言い三人分を盛り付けました…
子供はガツガツ食べ始めました…
お母さんは最初遠慮しておりましたが…
「実は、私達夫の暴力から逃げて来たんです… 子供達にはお菓子しか食べさせていなくて…」
ポツリポツリと話してくれました…
子供達もわたしと同僚二人に馴染み…わたしもお母さんにビールを薦めたりして、焚き火を囲んで楽しい時間が過ぎました…
夜も更けてきた頃、「あっ!…今夜はわたしのテントで母子で寝て下さいね!」
「いえいえ車で寝るつもりで来てますから…」
わたしは有るだけのブランケットを用意して無理矢理母子をわたしのテントに押し込みました…
その頃は同僚のSとTもそれぞれのテントからイビキが聴こえておりました…
わたしは当時はまだイス泊とかしておりませんでしたし…焚き火が消えてからSの幕に潜り込みました!…
翌朝…周りの片付けの音で目覚めました…
雑魚寝してたわたしを見下ろしながら、Sは「何だお前!夜中にイキナリ潜り込んで来やがって…おかげで窮屈だったぞ!…」
「いや…だってあの母子にテントを貸したから…」
「お前!まだ寝ぼけてんのかよ!…」
わたしは自分のテントを見に行きました…
テントには誰も居りませんでした…
SとTに昨夜の事を聞きましたが…
昨夜はカレーライスを食べてから三人で焚き火して呑んで寝た!とのこと!…
母子?!…お前!酔っ払って夢でも見たんだろ!…
わたしは主張しましたが、裏付ける自信もなく、夢だったのか?!…と自分を納得させました…
撤収の片付けの時バケツにつけておいた食器の洗い物をする時に、六人分の皿とスプーンが有りました…
管理棟で聞くと、昨夜は母子だけの泊まりは無いとのこと!…
ただ、この年の春先にこのキャンプ場の駐車場で家庭の事情で車で無理心中をした母子がいた事を知ったのは暫く経ってからでした…
わたしはあれからもY県のD村にキャンプによく行っておりますが、それ以来そのキャンプ場だけは行っておりません…